2004年11月07日
愛の落日
原題と邦題が違っている映画や本は時折見かけますが,これは最たるもの.ベースはグレアム・グリーンの「静かなアメリカ人」.いまは「おとなしいアメリカ人」という方がいいのかもしれない.ベトナム戦争を経験した後では「静かな」より「おとなしい」のニュアンスがいいのかも.
久しぶりに映画を観に行って来ました.「愛の落日」です.新聞ではベトナム女性を巡るイギリスの新聞記者とアメリカ人医師の三角関係のラブミステリーのように書かれていたので,気軽に出かけて行きました.
表面的には確かにその通り.妻を故国に残してサイゴンにやって来た初老のイギリス人記者トーマス.彼は若く美しいベトナム女性ファングを愛人としていますが,そこに現れたのがアメリカの支援団体の医師パイル.ふたりの男が戦争の中で友情を深めていくのは素直に感じられます.同時にパイルはファングが好きになり,独身であることを武器にストレートにファングに求愛し,彼女も妻との正式離婚が出来ないトーマスよりもパイルに惹かれ,その元に行ってしまう.嫉妬に駆られたトーマスの気持ちの揺れがよく描かれています.その気持ちをうまく捕らえた事務所の助手にそそのかされた通りにパイルを呼び出しますが,その途中でパイルは刺し殺される・・・.トーマスはファングをふたたび取り戻して・・・,というのがストーリー.
でも伏線として,じつはパイルはアメリカCIAのエージェント(?)であることが徐々に明らかになってきます.アメリカがフランス軍の弱さに郷を煮やし,北のホーチミン軍と対抗するよう南の将軍に軍事援助を行っていて,その動きの中でパイルが殺されてしまう.泥沼のベトナム戦争へ踏み出そうとしているアメリカの動き,インドシナ戦争での陰の動きがうかがわれます.グリーンが出版した当時,ここまで見据えて書いたのかは不明ですが,プロローグではまさに泥沼化を示す記事が次々に現れ,これが単なるラブミステリーでないことを示しています.
第二のベトナム戦争とも言えるイラク戦争を日々見聞きしている身にはストーリーの時代設定となっている52年が決して過去とは言えないと感じさせられるました.原作もぜひとも読んでみなければ.
投稿者 violetta : 2004年11月07日 19:43
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