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朝の風景

5月にしては強い日差しにS美は目を細めた.こんな朝早くにはサングラスは必要ないと思い,掛けて出て来なかったことがちょっと悔やまれた.

角の家の桜は,今日明日辺りが満開.明日は何年かぶりにお花見行こうかしらなどと考えながら,いつものようにバス停の方向に曲がった.

早朝のバス停にはまだ誰もいない.「勝った!」とS美は心の中で叫んだ.いつもバス停一番乗りを競っているサラリーマン風の男は,まだ来ていない.勝気なS美はこんな小さなとこでも気にしている.

今日は朝からラッキーだわ,この調子なら今朝の会議もうまく乗り越えれる,と自信を強めながら,読みかけの柴田よしきを取り出した.

初めはそれほどでも思っていたのが,後半になって俄然面白くなり,昨日は真夜中近くまで読み続けて,まだ眠気が残っている.そんな眠気が完全に取れていないS美の目の端に,坂を下っていくOL風の女性が入ってきた.

やっぱり彼女も忙しいのかしらと思いつつ,本に意識を集中しようとした途端,とんでもないことを思い出した.今日は早朝会議のため,いつもより早く出勤.ってことはこのバス停まではバスが来ない! 

それからのS美はせっかくブローした髪型が乱れるのも気にせず,坂を一目散に走り出した.ボールゲームなどは特異だけれど,走るのは苦手のS美.しかし会議に遅れては,との恐怖から転がるようにして,下のバス停に急いだ.

息咳って,ゼーゼー言いながらもバス停にたどり着いたのは,ちょうど折り返しのバスが入ってきたところ.すでに数人バス停に並んでいて,いつもの「お気に入り」の席に腰掛けるのは無理とあきらめて,車内に入ってS美の目に,まだ誰にも占拠されていないお気に入りの特別席が飛び込んできた.

「終わりよければ全てよしよ」,いまだに荒い呼吸をしながらも,さりげなくしかし確固とした足取りで,S美はお気に入りの席に足を進めた.

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